教育セミナー第10回「新たな視点で英語教育を考える」動画配信開始/質問回答 - 東京インターナショナルスクール キンダーガーテン/アフタースクール

2023.12.20

教育セミナー第10回「新たな視点で英語教育を考える」動画配信開始/質問回答

Hello Everyone,

先日2023年11月19日(日)に、教育セミナー第10回「英語は実技科目?!新たな視点で英語教育を考える」を開催しました。

今回は京都教育大学附属京都小中学校 英語科主任の今西竜也氏を登壇者としてお迎えして開催しました。
>> 京都教育大学附属京都小中学校 <<

長年の小学校中学校での英語教育の現場での経験や、調査研究のために生活したアメリカでの体験から見た、日本の英語教育に対する新たな視点についてお話しくださいました。

このブログ記事ではセミナー中に寄せられたご質問と今西先生からの回答をご紹介します。
セミナー中にお答えできなかったものへのご回答に加えアンケートにご記入いただいたもの、またセミナー中にお答えしたものも、改めて回答いただき掲載しましたので、ぜひご覧ください。

セミナーの動画も公開しています。下記のリンクから全編をご覧いただけます。
当日に参加でなかった方はもちろん、ご参加いただいた方も振り返りにどうぞご覧ください。
>> セミナーの動画(約55分) <<

 

1.セミナーに寄せられた質問と回答

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質問1:
小学生の英語スピーキング力について、どの程度の力がついているかを客観的に確認していく方法として、TOEFL Primaryを定期的に受験させる以外に、どのような手立てや工夫があるでしょうか。
たとえば、英語による自己紹介を小4・小5・小6のように、定点観測的にビデオ録画し、それらを評価することで客観的なスピーキング力の伸びが確認できると思います。しかし、多忙な教員が個々の学習者の英語発話を発音・リズム・イントネーション・流暢さなどの観点別に評価するには、多大な時間とエネルギーが必要です。電子ポートフォリオなどで何か工夫することはできますか。 

回答:
スピーキングに関しては、子どものモチベーションをいかに高めるかが大切だと思います。やらされるのではなく、やりたいなという気持ちになる課題の設定をすること、また過去のビデオや上級生のモデルを示したり、学級・学年を越えてオーディエンスを設定したりすることも効果的だと思います。
またイントネーションや発音だけを切り取って評価したり指導したりするのは大変労力のいることですから、発表や対話の活動の中で気づいたときにほめたり訂正したりするフィードバックを与えていくことで対応できるのではないかと思います。
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質問2:
英語の教室を選ぶ時、どんなところを見たらよいのでしょうか?様々な教室があり、スタイルも様々で、選べません。

回答:
それぞれの教室において、子どもが楽しんで過ごしていることが大事だと思います。英語ばかりを習うのではなく、工作やゲームや歌などに英語を使いながら取り組んでいて、その内容をやってみたいと思えるような環境が、子どもの英語も伸ばしてくれるでしょう。また、楽しむことと同じくらい困って、何とかそれを乗り越える経験がすごく大切です。ですから、困ったときに日本語に逃げられない環境や安易に日本語に逃げられない環境も、きっと子どもの英語の学びや、自分の力でいろいろなことを乗り越えていく力に役立つと思います。
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質問3:
現在小学校で英語を教えているのですが、クラスルームイングリッシュに悩んでいます。英語だけにすると、できない子は聞くのをやめてしまう子もいて、どのように英語を使えばいいかアドバイスいただけると幸いです。

回答:
クラスルームイングリッシュは、理解していなくても耳に入れておくだけで、どんどん子どもの中に蓄積されていきますので、英語だけの指示を貫くのがよいのではないかと思います。先生が話して、子どもが聞くだけの時間が長く続くと、どちらにとっても居心地の良いものではないので、子どもの動作の指示が時折あるとよいでしょう。体を使った手遊びや、教室の反対側の床に座りましょうという指示などで、耳で聞いて体で反応する機会を混ぜていくと改善できるかもしれません。
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質問4:
発音の練習は大事であると認識していますが、繰り返し練習させるため、子どもの集中力を継続させることが難しい指導の一つかと思います。
指導する上で工夫できることはありますでしょうか。

回答:
発音だけを向上させる練習はしんどいことがありますし、それだけをやっていても効果的でない場合もあります。学びにおける子どもの特性は千差万別なので、いろいろな方法を試して子どもに合うものを選んでいくのが大切です。一度やってみてよかったからそれを他の子どもや翌年同じように使うという方法は、良くない方法になってしまっている危険性もあります。また、発音は言うだけでなく、先生やクラスメイトが話しているのを聞いてヒントが得られる場合もありますので、発音が難しく感じるからと言ってネガティブにならずに良いものを見つけよう、真似しようという気持ちになれるといいですね。またALTやCD、音声教材などに頼ってもいいですし、いいものや新しいものの力を借りて、よりよい方法を模索していこうという姿勢が役立つかと思います。
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質問5:
英文読解には9割以上の単語を知っている必要があるという語彙研究があります(Nationなど)。この点では,TOEFL Primaryを小5・6年で受けるのは,かなり難しいまたは無理だと考えてよいのでしょうか。

回答:
確かに英文読解にはかなりの割合で語彙を知っている必要があるとされています。よって小学校5・6年の児童については、英文読解の問題を英文のみに頼って解く場合には、満点は取れないと思われます。しかしながら、TOEFLのReading問題では、半分くらいがイラストを用いた問題か、招待状やチラシのような問題で、英文以外の情報が理解を助けると思われます。また、満点を取るためではなく、毎年成長していく過程を体感することを意図するならば有意義であると考えます。だんだん知っている語が増えてくる、内容がわかるようになってくるという経験をさせることができます。
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2. 現場の教師の不安

現場の小学校教師たちが抱える英語教育における不安について考えてみましょう。
英語指導の目標や生徒の英語力の現状を見極めることが難しい中、教師たちはどのような指標を頼りにしているのでしょうか。

小学校の英語学習が始まったのは2002年で、「慣れ」「親しみ」を主な目的としていました。2011年からは週1回、年間35回の「英語活動」として必修となり、2020年からは5・6年生に「必修教科英語」が設定されました。

しかし、子どもたちの学習経験や興味・関心には一人一人に大きな差があり、目指すべき方向も異なります。
一方で、子どもたちの吸収力はとても大きいので、日常生活でワイワイしているような英語力は身につけることができるのではないかと思っています。

「英語の力」の評価にはテストの点数や検定試験の級がよく用いられますが、それらの多くは試験範囲が定められていて、子どもたちは合格や良い点数のために、指定の範囲を勉強することが目的になってしまうため、これらの評価方法が本当の英語スキルを反映しているかについては疑問視されています。
英語はコミュニケーションのための言語であり、テストで得点が高くても実際に使えるかどうかは異なるためです。

英語は何かを成し遂げるために使うものです。
テストで良い点数を取るため、合格をするためだけに学ぶのではありませんから、年齢相当テスト問題を通して、合否を知るのではなく、英語で何ができるのか、過去の自分のパフォーマンスと比べながら成長できるTOEFLテストを採用しました。

この試験の結果は合否ではなくだけでなく、スコアやヨーロッパの言語基準のCEFRで示されるので、子どもたちは他者との比較ではなく、自己成長を評価できるとされています。
教師たちもTOEFL Primaryの受検に賛同し、保護者にもその理念を共有しています。

 

3. 保護者の不安

保護者の中には「文法を教えてもらわないと不安だ」「スペルをちゃんと覚えてほしい」という声をあげる方もいますが、この不安に対して考えてみましょう。

私はかつては、いわゆる早期英語教育には反対でした。
しかし、その後の経験から気づいたのは、小学生には小学生の英語学習スタイルがあり、単なる文法の暗記よりもコミュニケーションを重視したアクティブな学びが効果的であることです。
やりたいことに取り組みながら具体的な言い回しや表現が身につくことで、子どもたちは実践的な英語スキルを育みます。
プロジェクトベース、課題解決型、と言えるでしょうか。

文法項目などのルールの理解まで求めると小学生は、頭が混乱してしまいます。
小学生には小学生の英語の学び方がある、と考えています。
小学生が英語を学ぶ利点は多くあるのですが、あえていうなら「音」。
日本語にない音をよく聞き、再現することができることです。固定概念のない純粋な心と耳で聞いているからです。
文字に頼らないイントネーションや発音など、音の習得は小学生で英語を学ぶ大きなメリットだと言えます。

実際に海外での経験や交流、英語を使って実現できることが、学習のモチベーションを高める一因です。
生徒たちは英語の力を伸ばす中で、他の教科と同様に成長している姿勢を持ち、将来的に英語を使って自分の専門分野で活躍することに期待しています。

TOEFLテストを導入したときも、保護者からは難しすぎるのではないか、といったお声もいただきました。
その点については、TOEFLテストは自分との比較ができる点が適していると思います。
他人と比較することは、今はできることが少ない生徒にとってデメリットがあるだけでなく、もっと伸びることができる生徒もテストで他人と比べていい点をとったことで、成長が止まってしまうことがあります。
TOEFLテストは未来の自分に向かうための過去、現在、未来をつなぐテストだと思っています。

中学生までの英語の検定教科書の内容について、TOEFLテストで正解を導くための単語の数と割合を調べました。小学生では60%近く、中学校では80%以上の単語がTOEFLで使用されていることがわかります。
教科書の内容にしっかりと取り組むことで、TOEFLのようなグローバルなテストに対応できることがわかります。

 

4. 小学生が英語を学ぶ意義

小学校では国数社理を主要四教科とされ、体育や音楽と分けて言うことが多いです。
中学校ではそれら四教科と英語で主要五教科と言って、そのほかを実技教科と言ったり、塾などでは入試に無い教科を副教科と呼ぶこともあるようです。
この分け方に倣うと英語は実技教科ではないと捉えられますが、私は実際には英語は実技だと考えています。
英語の習得は、単なる知識の蓄積だけでなく、言葉を使って何かを成し遂げる実践的な技能だと考えられるのです。跳び箱を飛べるようになったり、楽器を演奏できるようになる過程と同じ過程を通る必要がある科目だからです。
一度学んだことを使成長とともにアップデートしなければいけないという点でも実技の一環と言えると思います。
例えば中学生が美味しいものを食べた時に「Yummy !」というのは年齢層等ではない表現です。
中学生になったら、”It tastes good”や“It‘s delicious“という表現を使える必要があるように、きちんと英語を使うことを前提としてアップデートしなければいけない点も実技科目と言えると思います。

また、英語は失敗や困難を経てこそ上達するものであり、完璧な英語を目指すよりも、積極的に使用して成長していく姿勢が重要です。
適切な表現がわからなくても、言ってみて、指摘を受けながら修正することで、実際のコミュニケーション能力が向上します。
私が経験から学んだこととして、アメリカでの滞在中に、正確な英語を話すことよりも、自分の気持ちを伝える自信が重要であることに気づきました。
英語を話す人々の文法の正確さにとらわれないバラエティに富んだ表現や発音に直面し、不安を感じることもありましたが、自分の意思をしっかりと伝える姿勢をもっていてこそ、英語が通じるということを実感しました。

英語を母語とする人は世界のわずか4億人弱です。
英語を話す人は世界で14.5億人ほどとされていますので、つまり全体の8割ほどがネイティブではない、言い換えると英語を第二言語や外ことして使っている、と考えられます。
アメリカの中でさえいろいろな英語がありますから、英語は言葉の発音よりも、リズムやイントネーションにフォーカスを当てる必要があります。
そのためにもやはり日本人には自信を持って表現することが大切で、自信を持つことで日本人でも上手な英語コミュニケーターになることが可能です。ぜひ英語のリズムやイントネーションを大切にしながら英語を身につけてほしいなと思っています。

 

5. 英語指導と英語教育の違い

英語指導は主に塾で行われ、生徒たちが英語の文法を理解し、テストで高得点を取ることを目指します。
それが目的であるなら、英語が得意な子がいい子で、英語の苦手な子は悪い子と判断されてしまいます。
しかし、これは単なる点数追求であり、教育とは言えません。
子どもたちを苦しめ、成長の機会を奪ってしまう可能性があります。

一方、学校で行われる英語教育では、英語指導を通じた子どもたちの総合的な教育を目指します。
教育とは人が育つことです。
得意な子どもだけでなく、苦手な子どもも一緒に学び、成長する姿勢が大切です。
子どもたちが一つ一つの課題や困難に向き合い、悩みながら苦しみながらも努力する様子こそが、真の成長を促すものです。
そして子どもはゆっくり成長します。

親や先生は、「できないこと」を責めないですよね。一緒に解決策を考え、成功体験を共有することが大切です。
教育は人が育つプロセスであり、他者との関わりを深める中の様々な経験を通じて自己を知ります。
得意なことよりも、苦手なことに真剣に向き合い、試行錯誤しながら前進する姿勢が重要です。
同じ環境で学ぶ仲間の良いところも見つけ、刺激を受けながら自分を高めていくことが、真の教育の成果です。

翻訳技術の進歩によって、英語が話せなくてもいい時代が確実に訪れるでしょう。
しかし、本当にそれで十分なのでしょうか。
ビジネスにおいては便利かもしれませんが、自分の気持ちや感動を自らの言葉で伝えたいという欲求は根強く残るのではないしょうか。
言葉の選び方や表現は大切であり、夏目漱石が「I love you.」を「今夜は月がきれいですね」と訳したように、一つ一つの言葉を大切にすることが大切です。

 

セミナーのアーカイブ動画をYoutubeで公開しています!
当日に参加でなかった方はもちろん、ご参加いただいた方も振り返りにどうぞご覧ください。
>> セミナーの動画(約55分) <<

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